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スペシャルインタビュー

パリンヤー・ジャルーンポン、エカチャイ・ウアクロンタム監督スペシャルインタビュー

あの“オカマキックボクサー”パリンヤーの半生が映画化!

数年前、“オカマのムエタイ選手”として本国タイではもちろん、日本でも試合を行い、圧倒的な強さでド肝を抜いたパリンヤー選手を覚えているだろうか? 当時、人気を集める一方で「女装は話題作りのためでは?」なんて批判されたり、“オカマ”という物珍しさから見世物的な扱いを受けることも多かったパリンヤー。現役を引退後、性適合手術を受け、身も心も“女性”として生まれ変わり、今では女優・モデルとして第2の人生を歩み始めた彼女。そんな彼女の波乱に満ちた半生を描いた映画『ビューティフル ボーイ』が10月15日より公開される。そのプロモーションのために来日したパリンヤーと、エカチャイ・ウアクロンタム監督を直撃した!

STORY ≫

男だった自分も、女になった自分も私は私
どの自分も否定はしないし、誇りに思う

 やっぱり「事実は小説より奇なり」なのである。どんなによく練られた映画やドラマ、小説にだって到底太刀打ちできないような、ドラマティックな人生は確かに存在するのだ。“オカマのムエタイ選手”として一世を風靡したパリンヤー・ジャルーンポンの人生もしかり。自らの半生を描いた映画『ビューティフル ボーイ』のプロモーションのために来日した彼女は、かつて最強のムエタイ選手として活躍していたことが信じられないくらい、美しい女性へと変貌を遂げていた。

「選手時代の自分は、心と体がかけ離れ過ぎていて本当に苦しかったわ。とても苦しいのに捨てることもできない…。(性転換)手術を受けたことは、将来どんなことが起こったとしてもすべて自分の責任、何があっても覚悟するという決意で受けたものだから後悔していません。私が幸せなのはもちろんですが、家族もみんな幸せです。かといって、昔の自分も否定はしません。今も昔も私は私ですもの」(パリンヤー)

パリンヤー・ジャルーンポン

PROFILE

1981年6月9日、バンコク生まれ。幼少時代は両親の仕事に伴い、タイ各地を点々とする。1995年、祭りの余興のムエタイ試合に偶然駆り出されたことがきっかけで、チェンマイのギアップサパー・ムエタイジムに入門。初試合以降圧倒的な強さで連勝を重ね、タイ北部で有名になる。1998年2月24日にルンピニースタジアムで初試合、勝利を収め、人気がブレイク。1999年、性転換手術を受け、現在では女優として活躍中。

 と、選手時代の自分を振り返りつつ、“女性”として生まれ変わった現在の心境について語ってくれた。幼少時代や、ムエタイ選手時代の栄光の裏では様々な葛藤やつらい出来事が多かったようだが、今回映画として改めて自分の人生が描かれるというのはどんな気分?

「今まで私のストーリーを映画化したいというオファーがたくさんあったけど、どれもやる気にはならなかったの。貧しかった子供時代や選手時代のことなど、あまり良くないことやつらかったこと全てが世間の人たちに知れ渡ってしまうのが怖かったから。私はいろいろ悪いこともやったし、正しいことだけをしてきたわけじゃない。でも、私の人生を映画に描くことで、観た人に勇気を与えることができるかもしれないと思うようになりました。それはエカチャイ監督と会ったことがきっかけです。彼とは話がよく合ったし、心から信頼して仕事ができると思いました」(パリンヤー)

「僕はノン・トゥム(パリンヤーの愛称)のことは最初はニュースを読んで知ったんだ。とても女性らしい心を持っていながら、一方では男らしさの極地のようなムエタイをやっている…という部分にとても興味を持った。僕は何かを一生懸命がんばっている人が好きなんだ。ノン・トゥムのストーリーには、人生の戦い、自己との戦い、生活との戦いなどいろんな戦いが入っている。きっと観た人は勇気をもらえると思うよ」(監督)

 

育ち方がパリンヤーと似ているアッサニー・スワン
違うのは女性になりたいと思わなかったということだけ

 映画の中でパリンヤーを演じるのは、タイ全国で行われたオーディションによって選ばれた新人のアッサニー・スワン。アッサニーはパリンヤーと同じくムエタイ選手として活躍しており、映画出演を機に現役を引退。共にチェンマイ出身、家族を養うためのムエタイを始めていたりと共通点も多いアッサニーの演技にとても満足しているとパリンヤーは話す。

「アート(アッサニーの愛称)のことはもともと知っていましたが、まさか彼が私を演じるとは。最初はすごく驚いたし、心配した部分もありました。だってアートはとても男らしい人だし、オカマの気持ちなんて理解できないと思ったの。でも、彼は演じるにあたってとても努力をしてくれたわ。私の女性らしさや葛藤をとてもよく演じてくれたの。アートの演技にはとても満足しています」(パリンヤー)

「トゥムの役は本物のムエタイ選手に演じてほしかったんだ。アート(アッサニーの愛称)は、とてもムエタイの技術が高いし、家族や育ち方がノン・トゥムと似ていた。2人とも苦しい経験をしている。ただ違うのはアートが女性になりたいとは思わなかったっていうことだけ。苦しい経験を乗り越えたアートだからこそ、トゥムの役を演じることができたんだ。集中力も200%あるし、とてもいい演技をしてくれたよ」(監督)

 と、ベタ褒めの2人。新人ながら、その迫真の演技でタイのアカデミー賞と言われるスパンナホン賞で見事最優秀男優賞を受賞した。映画の中にはもちろんパリンヤー自身も出演している。ノン・トゥムの心に影響を与えるエステティシャン役だ。

「この役はとても大事な役なのよ。ノン・トゥムの人生を変える役なんだもの。彼にもっとキレイになってほしいと、女性ホルモン剤をあげるの。私もトゥムにもっともっとキレイになってほしいと心から思いながら演じたわ」(パリンヤー)

 

どのエピソードも全部真実
でもドキュメンタリーとは違うわ

 そして気になるのは、いったいどこまでが真実なのかということ。自伝モノとは言いつつも、事実が数割程度しか入っていない作品も多いが…。

「んー、100%真実と言ったらいけないかもしれないわね。だってドキュメンタリーフィルムではないですから。映画用に脚色している部分はあるにせよ、でも、どのエピソードも私のストーリーだと断言できるわ」(パリンヤー)

「実際にあったストーリーに対して嘘はつけない。パリンヤーが語ってくれたことは100%映画の中に入ってるよ」(監督)

『ビューティフル ボーイ』は、一人の人間の“心の旅”を描いた作品だ。人間の本質は決して外見だけ、表面だけで判断することなんてできない。そんなことを強く感じることができる作品だ。一人の人間の人生を真正面から描き出すことに成功した『ビューティフル ボーイ』は、何か迷いがある人にこそぜひ観てほしい作品だ。きっと、生きるヒントや希望が見つかるに違いない。

↑8月24日、都内ホテルで行われた来日記者会見では、主演のアッサニー・スワン、パリンヤー・ジャルーンポン、エカチャイ・ウアクロンタム監督が出席。後半では井上京子選手も登場!

 最後に女優として、そして女性としての目標を尋ねてみるとこんな答えが返ってきた。

「せっかく女優という道を選んだんだから、一番を目指したいわね。例えばハリウッドを目指すとかね。それから女としては普通の女性と同じように結婚したり子供を持ったり…、そういう幸せな生き方がしたいわね」(パリンヤー)

 パリンヤーはこの夏、再びエカチャイ監督と手を組み、自らの人生をミュージカル化した一人芝居『ボクシング・キャバレー・ショー』に挑戦した。さらに今はエカチャイ監督の新しいアクション映画を撮影している最中だという。女優として、女性として新しいステージを歩き始めた彼女の人生に、ぜひとも注目したい。

エカチャイ・ウアクロンタム

PROFILE

バンコク出身。バンコクのアサンプション大学在学中に国立シンガポール大学に留学、経営学修士を修めた。卒業後、タイ大手企業Red Bull、アメリカン・エクスプレス・シンガポール支店に勤務する傍ら、演劇サークルを主宰。その後シンガポールで演劇製作会社アクション・シアターを設立、国内外で公演を行う。その実力が認められ、タイ最大手のエンターテイメント企業グラミー・エンターテインメントにスカウトされ、タイに帰国。『ビューティフル ボーイ』が初監督作品。