ヘヴィメタルのようなハードな曲から、耳なじみの良いポップロック、胸にグっと響くロマンチックなバラードまで、何でもアリの雑食性で本国タイでは大人気のPARADOX。ライブではベースのソーンが女装したり、パフォーマーのオップとゲンが、スクリームの怪人になったり、怪しいマスクを身につけたり、ゴレンジャーのコスプレをしたりといった奇抜な衣装とともに火を噴くわと、これまた何でもアリで、盛り上げる。そんなお祭り騒ぎのような派手なパフォーマンスが目を引くだけに、「お笑いバンド?」と勘違いしてしまいそうだが、一筋縄ではいかない楽曲センスの高さには定評がある。buddhist holidayとのライブのために、来日した彼らの素顔に迫るべくインタビューを試みた。
”楽曲はみんなが“面白い!”
って思えばなんでもアリ!
── 今回、PARADOXが日本でライブをするのは初めてですよね。ということは当然PARADOXを初めて見るという人が多いと思うので、プロフィール的なところから話を聞かせてください。まずはPARADOXの音楽性を教えてください。
ター : アイデアをいろいろ混ぜて、聴いた人におもしろい! と思ってもらえるような音楽をやっています。
── 具体的にどんなジャンルになりますか?
ター : ポップロックかな。ゆっくりとしたテンポの遅い曲もあるし、それとは対照的にものすごく速い曲もあるよ。なんだろうな、いろいろなタイプの曲をやっているからひとまとめにするのは難しい。笑えるような面白い曲もあるし、感動的な曲もある。なんでもアリ!っていうのが俺らの楽曲の特徴だね。
── 歌詞は、どんなことを歌っていることが多いんですか?
ソーン : だいたい、みんなの体験したことなんかを曲にしてることが多いよね。
ター : みんなが“面白い!”と感じたことならなんでもいろいろ。例えば愛のないさみしい人に愛をあげるというような内容だったり…。そうそう、『ロークジット』っていう曲があるんだけど、これはゲンのことを歌ってる曲なんだ。“ロークジット”っていうのはタイ語で“バカ”“変”っていう意味(笑)。ゲンは性格が変で、バカな行動が多いからみんなから笑いの標的になりやすいんだ(笑)。ゲンのおかしな行動とか、失敗したことなんかを歌ってるよ。
ゲン : あはは~(苦笑)。
ター : まあ、いろいろと自分たちが感じたことや体験したりしたことの中から曲にすることが多いよ。
── PAADOXが結成されたきっかけは?
ター : PARADOXは俺らが大学1年の時に結成したんだ。新入生歓迎会で演奏するために、友達を呼んでバンドを始めたんだよ。でも、その時は4人で演奏してて、オップは歌はうたわずに司会みたいなことやってたよ。
── 結成して何年目になるんですか?
ソーン : 今年でもう9年目だよ。
── 長いですね! 長い間一緒にバンドをやっていると、だんだん意見が合わなくなってきちゃってメンバー同士でケンカばかりになって、仲が悪くなってきちゃう…なんてパターンも多いですけど、PARADOXは大丈夫ですか? まあ、こうして見る限り、メンバー全員すごく仲良さそうですよね。
ター : あはは、大丈夫(笑)。もともとの友達同士から始まったバンドだからかな。仲が悪くなったりしたことは全然ないよ。
── PARADOXの曲はすごく楽しい曲も多いし、ライブもものすごく楽しいですけど、結成した最初の頃からお笑い系の曲をやっていたんですか?
ター : いやー、一番最初に作った曲は、実は重くてハードな感じの曲だったんだ。でも、重い曲ばかりやってると、なんていうのかな、ちょっと言いづらいんだけど顔がキビしいファンが付いちゃうからさー(笑)。だから、かわいいファンをいっぱいつけようと思って、だんだん曲が変わってきたんだよね。
── え、それってホント? これから変えたいってこと? それとももう変わったの?
ター : もう変わったよ。それで、俺たちは今、台湾のF4(台湾のさわやかイケメン4人組アイドルグループ)みたいになったんだ(笑)。俺ら、F4みたいだって思わない?
── えっ、そ、そうですかね…!?
ター : なーんてね。結局曲を変えてもかわいい子が増えなかったんだよね。だから今は日本のファンを狙ってるんだ(笑)。
── じゃあ、今回のライブでいっぱいかわいい日本の女の子のファンをゲットしてってください。日本でのライブではどんな曲を演奏する予定ですか?
ター : 今回、日本でのライブでは速い曲を中心に演奏する予定なんだ。
── それはなぜ?
ター : 遅いテンポの曲は、メロディも歌詞の内容もとてもきれいだし自信があるよ。でも、速い曲やハードな曲ばかりを選んだのは、日本人はそういう曲の方が好きかなと思って。それに速くてハードな曲の方がリズムがおもしろいし、言葉はわからなくてもきっとノってもらえると思うんだ。
── 確かに日本人はテンポの速い曲が好きかもしれないです。PARADOXの曲はバラエティに富んでますが、みなさんどんな音楽に影響を受けているんですか?
ソーン : みんなバラバラだよ。僕はパンクが好き。日本のアーティストなら少年ナイフが好きだよ。
ター : パンク、70’sロック、オルタナティブなんかが好き。アーティストでいうとビートルズ、ローリングストーンズが好き。
ビッグ : 僕はヘヴィメタル。ラウドネスが好きで、ギターの高崎晃さんのファンです。
ゲン : 僕はマイケル・ジャクソン。まだ肌が黒かった頃の(笑)。「スリラー」とか好きだったね~。
── 本当に見事にバラバラですね。
ター : 音楽性はバラバラだし、曲を作る時や何かする時、意見がバラバラになったりするけど、それぞれのおもしろい部分をミックスして整理していくとPARADOXになるんだ。バンド名は“逆説”とか“矛盾”っていう意味なんだけど、自分たちのことをよく表してると思うんだ。曲を聴いてもえるとよくわかると思うけど、いろんなスタイルが入ってるよ。
誰も僕たちのことを知らない場所で
ライブするのって刺激的
── なるほど。ところで、PARADOXのライブはとても楽しいと聞いたんですけど、いつもどんなライブをやってるんですか?
ター : もういろいろ。何でもアリみたいな感じだよ。ソーンが女装したり、ゲンとオップはエンターテイナーだから、いろんな格好をしてファンを盛り上げたりとかしてる。どんな格好をしてるかっていうと、マスクをかぶったり、マスクをつけたり、ジェイソンになったり、ゴレンジャーになったり…。とにかく変わったことをやってるよ。
── ソーンさんの女装はPARADOXのライブの名物になっているみたいですね。女装を始めたのはなぜですか?
ソーン : 大学のときに、男性は女装、女性は男装をするっていうイベントがあったんだけど、そのイベントに女装で参加したらハマっちゃった(笑)。それで、今に至ると。女装をしないでライブをやると、ファンから「なんで女装しないのー?」ってブーイングが起きちゃうから、変えたくても今更もう変えられないんだよねー。
── 素朴な疑問ですけど、女装してるとオカマさんに間違えられたりしませんか? っていうかもしかしてオカマさん???
ソーン : まっさか~! 最初はよく誤解されてたけどね。でも、女装はライブの時しかしないっていうことをみんなちゃんとわかってくれているから大丈夫よ~。なんてね~、ホントはオカマちゃんなのよ~(笑)。
一同 : 爆笑。
── もー、嘘つかないでくださいよ~。日本でライブをやるっていうことで、タイでやるときと気合いの入れ方は違う?
ター : とにかく楽しみだね。俺らのことを誰も知らない場所でライブをやるっていうのは刺激的だし、新鮮。なんだかデビュー当時に戻ったみたいだよ。だからすごく楽しみだね。
ソーン : ターが言ったことと似てるけど、日本の人たちとは会ったことがないから、僕たちのライブにどんな反応があるのかすごく興味あるし、楽しみだよ。
ジョイー : タイでは毎回ライブに来るファンもいたりして、知ってる子たちもいっぱいいるけど、日本では僕たちのことは誰も知らない。楽器を持って電車に乗っても僕たちに声を掛けてくる人もいない。今回はまったく新しい気分でライブができる。日本人の人たちの反応が本当に楽しみだよ。日本人はライブの時、どんな風にノるんですか?
── そうですね。よく海外のアーティストが日本でライブをやってよく言うのは「おとなしいね」ってことですね。でも、ライブが盛り上がれば、ダイブやモッシュが起きたりもしますよ。
タイ;タイではお客さんがノリすぎてケンカになったりするよ。
ゲン : タイでは言葉が通じるからお客さんと掛け合いをしたり、ステージを降りてお客さんと一緒に遊んだりすることもできる。でも、日本では言葉が通じないし、どんな風にノるのかもよくわからないからなぁ。もし、僕がステージから降りたら逃げられちゃうかなー? まぁ、言葉は通じないけど、ボディランゲージでなんとかなるよね。
オップ : 僕はエンターテイナーとしていつも盛り上げる役なんだけど、日本語ができないからどうやったら笑わせられるのか心配だけどがんばります! タイではいつもライブで火を吹いてるんだけど、日本ではできないから残念!
── ああ、そうですね。日本は消防法が厳しいので…。ライブで火を吹くのはお約束になっているんですよね。見れなくて残念ですね。
音楽の他にも仕事をしているのは
本当にやりたい音楽をやり続けるため
── 話は変わりますが、日本に来てみてどんな印象を持ちましたか?
ター : 僕は日本に来たのは2回目なんだ。前は1年くらい前に来たよ。おばあちゃんが先生をやってるんですけど、日本の学校を視察に行くことになって、それで一緒に来た。ちょうど桜が咲いててとてもキレイだったのを覚えてる。いろいろと楽しくて、ずっと日本にいたいって思ったよ。
ゲン : 僕も2回目。僕はバンドの他に、日本のフィギュアやおもちゃ、アニメなんかを紹介する雑誌の編集もやってるんだ。それで、前回はライターとして東京と福岡に取材のために来たんだ。仕事ばっかりしててあまり遊べなかったけど、特に気に入ったのは福岡の温泉。気持ちよかった~!
── 温泉は恥ずかしくなかったですか?
オップ : ゲンはバカだから大丈夫(笑)。
ゲン : 実は温泉に行く前から裸で歩いていったんだ。僕は温泉まで裸で歩いてるのに、なんでみんな服を着てるのか不思議だったよ(笑)。
── いえいえ、それ捕まりますから(笑)。ソーンさんは今回日本に来てみていかがでしたか?
ソーン : タイで日本のマンガをよく読んでて、それを見て日本っておもしろいところだな~ってドキドキしてた。日本に来てみて思ったことは当たり前だけど、周りが日本語ばかりってことが新鮮だったよ。街の雰囲気はそんなにタイと変わらないのに。タイには日本のマンガがけっこう翻訳されてて、有名なマンガはだいたい読むことができる。「ドラえもん」「ドラゴンボール」「Dr.スランプアラレちゃん」「GTO」…。タイの今の若者は日本のマンガと一緒に育ってきたんだ。だから、日本に来てみて、「あ、マンガと同じ!」って思う部分が多くておもしろかった。
ジョイー : 僕が感じたことは、日本人ってみんな急いでるなあってことだよ。みんな歩くとき早足で急いでるよね。あと、日本はいろいろなものが整備されているし、洋服やスタイルのセンスがいい。
ビック : 言葉がすごくきれいだなって思った。日本語の響きっていいですね。それに日本人の人はみんなおとなしくて礼儀正しいです。
オップ : 電車に乗った時に思ったんだけど、日本の屋根の色はみんな暗い色で同じような色をしているよね。法律か何かで決まってることなの?
── 特に法律で決まってるわけではないと思いますが、日本人は地味好きですし、景観を損ねないように考えてるのかもしれないです。
オップ : そうなんだ。でも、街を歩いていてもゴミがあんまり落ちてないしとてもきれいだね。
── ゲンさんは編集者、ライターとしてもお仕事をしているんですね。ソーンさんは自分のお店を持っていると聞きました。もしかして、他のみなさんも音楽以外にお仕事を持っていたりするんですか?
ソーン : チャトゥチャクマーケットにお店を持ってて、Tシャツを売ってるよ。オリジナルTシャツも作っているよ。「WALL HALL」っていうお店なんだ。アンディ・ウォホールが好きだからそこからもじって店名にしたんだ。
オップ : 僕は小学校の先生をやってる。
ター : 僕も小学校で教えているよ。
ジョイー : 僕は携帯を売ってます。
ビッグ : 僕は楽器屋さんで働いてる。御茶ノ水には楽器屋さんがいっぱいあるからぜひ行きたいと思っているんだ。
── みんな音楽以外のお仕事もしているんですね。PARADOXはタイでとても有名なバンドなのに、なぜ音楽以外の仕事もしているんですか?
ソーン : なんで音楽以外の仕事もしているかっていうと、もし完全にプロとしてレコード会社に所属してしまったら、あれやこれや言われて本当に自分たちがやりたい音楽をやることができなくなってしまうでしょ。僕たちは本当に自分たちが納得のいく音楽をやりたいと思っているから、他の仕事もしているんだ。もちろん、両方ともやりたい仕事だっていうこともあるけどね。
── よくわかりました。では、これからPARADOXとしてやりたいこと、目標などを教えてください。
ター : 日本に来てる今も新しい曲を書いているんだ。来年の終わりくらいに新しいアルバムを出す予定だから、とにかくいい曲を作りたいね。
ソーン : 楽しい曲をいっぱい作りたい。個人的な目標としては、ゆっくり生活してTシャツを売ったり、マンガを読んだりして楽しく過ごしたい。
ジョイー : また日本にライブしに来たいね。それに日本のいろんなものを見て自分の中に取り入れたいな。
ビック : 次のアルバムの制作は徐々に進んでいるよ。みんながいろんな経験をしてその中から曲を作っていきたい。
オップ : タイに帰ったらまた勉強の毎日。生徒に勉強を一生懸命教えて、空いてる時はアルバムを作るよ。
ゲン : 早くアルバムを作ってライブがしたいね。日本に来た今も自分のやってる雑誌のために写真を撮ったりいろいろ取材してるんだ。帰ったら表紙にする写真を選んだり記事を書いたり忙しくなるよ。
ソーン : 取材とか言ってるけど、ホントは女子高生のミニスカートでも撮ってるんじゃないの~?
一同 : 爆笑。