タイ東北地方イサーンの南部、カンボジアと国境を接する一帯には有名なアンコール・ワットを中心に据え15世紀ごろまで栄えたクメール王朝が遺した遺跡が点在している。規模の大きさで知られているのはブリーラム県にあるカオ・パノム・ルン遺跡で訪れる観光客も多いが、そのすぐそばにある遺跡にまで足を延ばす人は少ない。そこに遺跡があるのは知っていても、壮大なカオ・パノム・ルン遺跡を見て「もう満足」となってしまい、立ち寄る気力がなくなってしまうのだ。 交通の便の悪さはたしかにある。しかし、せっかくそこまで来たのなら、ぜひ訪れてみてほしい。それがこのムアン・タム遺跡である。
中央の仏塔は崩壊しているが、周囲の4基の仏塔はうまく修復されている。それらを取り囲む回廊の復元具合もなかなか見事だ。この遺跡の軸となる仏塔群は古代インドの宗教世界で考えられていた宇宙の中心スメール山(須弥山)を再現している。これは多くのクメール遺跡に共通した思想で、アンコール・ワットがそうであるし、タイであればバンコクのワット・アルンの仏塔がこの思想の元に造られている。 遺跡の規模は大きくない。しかし、細工は細かくていねいで、造りもしっかりしている。イサーンに行ってピマーイ遺跡を見学し、カオ・パノム・ルン遺跡にも立ち寄ったなら、このムアン・タム遺跡も忘れず足を延ばしてほしい。ここはクメール文化とタイ文化を結ぶ線上にある、非常に重要な遺跡なのである。